犬の症例

犬のアキレス腱断裂手術

はじめに

人間と同様に犬でも「アキレス腱断裂」という病気があります。

スポーツ新聞を見ていると、プロ野球選手などで「今季絶望 アキレス腱断裂の手術で全治6カ月」などのタイトルをときどき見かけることがあるので、聞き覚えのある疾患かもしれません。

アキレス腱とはふくらはぎにある腓腹筋という筋肉と、踵(かかと)の骨をつなぐ腱のことです。

↑踵骨と腓腹筋をつなぐのがアキレス腱です。(人間の解剖イラスト)

 

人間の場合では、アキレス腱断裂は、踏み込み・ダッシュ・ジャンプなどの動作でスポーツを行うときによく起こるようです。特に30~50歳のスポーツを行う人に多く発生が見られるのが特徴であり、腱の変性(老化現象で脆くなる)が基礎的な原因になります。アキレス腱が切れた時には、「バチン」とか「ブチッ」とか、アキレス腱が断裂した時の音が聞こえることがあるそうでちょっと怖いですね…。

先日来院された犬の患者さんの場合、左後足のアキレス腱が完全に切れてしまっており、かかとの部分がペタンと床に着きながら歩くような状態になっていました。

左後足のかかと部分が床に着いてしまっています

前足の骨折や、前十字靭帯断裂などと異なり、犬のアキレス腱断裂に関する情報はあまり多くないため今回まとめてみました。

診断方法

まず、アキレス腱のどこの部位に異常があるか調べていきます。

「アキレス腱」は大きく「腓腹筋腱」と「浅指屈筋腱」の2つの腱に分けられるため、どの部位が断裂しているのかをチェックしていきます。

  • 「腓腹筋腱」のみの断裂

→膝の関節を完全に伸ばした状態で、足首の関節を曲げると、指の骨が屈曲する

犬の場合、踵骨とアキレス腱の付着部で腱が断裂することが多い

  • 「腓腹筋腱」と「浅指屈筋腱」の断裂

→膝の関節を完全に伸ばした状態で、足首の関節を曲げると、足首の関節が正常よりも過屈曲する

犬の場合、踵骨とアキレス腱の付着部で腱が断裂することが多い

 

↑正常肢(足根関節は曲げようとしてもこれ以上曲がらない)

 

↑アキレス腱が断裂した左後肢(アキレス腱が断裂しているため、足根関節が過屈曲になってしまっています)

 

治療

1、時間が経つと腓腹筋が委縮してしまうので可能な限り早期にアキレス腱断裂を整復する。

2、後外側(後内側)アプローチで皮膚切開を行う。

3、腓腹筋と浅指屈筋を分離する。

4、踵骨の浅指屈筋腱の内側もしくは外側部分を切開し、外側もしくは内側に脱臼させる。

5、踵骨のアキレス腱付着部と、腱の断端の肉芽組織をデブリードする。

6、マイクロエンジンのバーで骨皮質を削る+細いキルシュナーピンで何カ所も孔を開けおき、アキレス腱が癒着し易いようにしておく。もしくは、アキレス腱が付着する予定の踵骨部位をサジタルソーでカットして癒着し易いようにしておく。

7、浅指屈筋腱の動きを邪魔しないように気を付けつつ、踵骨にキルシュナーピンなどで糸を通す用の孔を開ける。

8、腓腹筋腱と浅指屈筋腱をなるべくそれぞれ別々に踵骨と縫合する。縫合糸はなるべく太めの糸を用いる。(2-0以上、0、1、2号など、プロリーン:材質/ポリプロピレン、エチボンドエクセル:材質/ポリエステルコーティング:ポリブチレートなど)

今回のワンちゃんは体重7kgで0号の糸を使用。

9、メインの縫合は縫合は強度が強いとされている3ループ法で実施。補助的に5-0等などの非吸収性縫合糸でアキレス腱と踵骨に残っているアキレス腱の組織を縫合する。

10、浅指屈筋腱の内側(外側)支帯を縫合する。

11、皮下、皮膚を縫合する。

12、術後2か月間は創外固定や、ギプスなどで固定する。

13、その後1~2か月はギプスや包帯などをしながら、固定を段階的に弱くしていく。

14、少なくとも術後6か月は激しい運動はさせない。

 

参考文献

Effect of calcanean bone-tunnel orientation for teno-osseous repair in a canine common calcanean tendon avulsion model

→踵骨に孔を開けてアキレス腱を縫合など

 

Effect of a continuous epitendinous suture as adjunct to three-loop pulley and locking-loop patterns for flexor tendon repair in a canine model
→ロッキングループ縫合と3ループ縫合の強さの比較など

 

Treatment of Common Calcaneal Tendon Rupture Using a Central Gastrocnemius Turnover Aponeurotic Flap Technique in a Dog

→アキレス腱が短くて踵骨に届かず縫合出来ない場合に用いる方法など
Application of tendon plating to manage failed calcaneal tendon repairs in a dog
→整形外科でつかうプレートをアキレス腱の縫合に用いる方法など

 

Ex vivo mechanical testing of various suture patterns for use in tendon plating

→整形外科でつかうプレートをアキレス腱の縫合に使う場合の各種の縫合法など

 

今回のワンちゃんの場合は、踵骨の部位でアキレス腱が断裂してしまっており、踵骨に孔を開け、ギリギリの長さではありましたが縫合糸でアキレス腱を踵骨に付着させ、術後に足根関節が曲がらないように足根関節を伸展させて創外固定装置を装着しました。

 

腱が完全に癒合して治癒するまでには6か月程度掛かるため、術後は安静にして、徐々に体重を掛けていくようにし術後管理には注意が必要になります。