カメの症例

カメの卵詰まりと卵胞うっ滞(卵管脱)

「お尻辺りから何か腸のようなものが出ている」という主訴でリクガメさんが来院されました。食欲が無く、ぐったりしている様子です。さっそく診察させて頂くと、総排泄腔から出てきている物体は形態からみて、腸では無く、「卵管」が出てきているようです(卵管脱)。

今回来院されたカメさんは女の子だったのですが、CT検査を行ったところ「卵管脱」に加えて「卵胞うっ滞」も発症していることが分かりました。

↑ 丸い卵胞が多数確認できます。当院ではCTスキャンを導入しておりこのようなカメの卵詰まりの診断などに活用しています。

レントゲン検査だけでは卵胞うっ滞の診断は難しいことが多いためCT検査が有効です。このような場合、「チョキンと切ってしまおう!」と出てきてしまった「卵管」を結紮して切除すると、体内に残っている卵や卵胞が排出できなくなって卵がお腹の中で腐ってしまい大変な事になってしまいます。そのため、外に出てきている「卵管」に加えて、将来的にも卵が作られないように、お腹の中の卵胞や卵管も切除しなければなりません。

飼い主さんとご相談の結果、外に出てきてしまった卵管を切除し、甲羅を切開してお腹の中の卵胞と卵管も切除することになりました。「カメに麻酔を掛けて手術ができるの??」と思われる方も多いかと思いますが、カメにも気管挿管をして麻酔管理や手術も行うことができます。

まず、甲羅の腹甲の部分や皮下に針を刺してアルファキサロンなどの麻酔薬を投与した後、気管挿管をしてガス麻酔で寝てもらいます。甲羅をよく消毒してから、ダイヤモンドディスクや外科手術で使う電動ノコギリで甲羅を切開します。

お腹側の甲羅をパカッと開けてみると…

卵胞が破裂しており腹膜炎が発生していました。これでは食欲が無くなりぐったりするのも無理はないです。この後、卵胞と卵管を取り残しのないようにきれいに全て摘出し、お腹の中を洗浄してから閉腹しました。

手術後徐々に元気や食欲も回復してきてくれたので良かったです。

 

【カメの卵詰まりや卵胞うっ滞について】

カメの女の子には、卵詰まりや卵胞うっ滞がしばしば発生(飼育下の発生率は39%だったという報告もあり)し、命に関わる状態になってしまうことがあります。原因として、不適切な飼育管理、産卵床の不備、栄養不足(カルシウム等)、肥満、卵管の感染、骨盤の出口を超えるサイズの卵、異常な形状な卵、母体の骨盤サイズの異常、卵管の異常、膀胱結石などが挙げられます。

症状

卵詰まりの症状は、腹膜炎、卵管脱などを併発している場合には、グッタリして食欲が無くなるような急性の症状が出てきます。慢性経過の場合には、食欲不振、衰弱、後足の麻痺、落ち着きがない、いきみ、穴を掘る行動をする、総排泄腔からのおりものなどが見られます。発症には季節性が無く、単独で飼育されているケースが多いです。

診断

食餌内容や産卵床の有無などの飼育環境を確認します。身体検査では後足の付け根から指で触ると卵がわかることもあり、また、その部位(前大腿窩)からエコー検査を行うと多数の卵胞を見つけることができます。レントゲン検査では、骨盤の出口より大きな卵、卵の殻が変形していないか、卵が破れていないか、何個卵があるのか、卵の位置は?などを調べます。また、CT検査を行うことでより正確に精査や診断ができることがあります。卵を持っているカメに元気や食欲があり大きな異常が認められない場合、飼育環境を整え、産卵床を用意して2週間ほど経過観察します。それでも卵が出てこない場合、卵詰まりと診断します。

治療

内科的治療

非閉塞性の卵詰まりの場合には、まず内科治療(皮下補液、カルシウム投与、オキシトシン投与など)を行います。

外科的治療

内科的な治療で良くならなかった場合や、閉塞性の卵詰まり、卵胞うっ滞の場合には手術を行って治療していきます。卵詰まりの治療法には、卵管切開術と卵巣卵管摘出術がありますが、将来繁殖を考えていない場合は、卵巣卵管摘出術を実施します。卵が骨盤内の産道に出かかっているのに詰まっている場合には、卵に注射針などを刺して、卵の中身を吸引した後に卵の殻をピンセット等で取り除くこともあります。