犬の浅指屈筋腱脱臼(トイプードル)
今回は、犬の浅指屈筋腱脱臼(Superficial Digital Flexor Tendon Luxation)について。
この病気は普段から診察していてもあまり見かけることが無いので、日本国内では珍しい方の病気だと思います。
最近、この病気になってしまったワンちゃんが2頭続けて来院されたのでこの脱臼について書いていきます。
この2頭とも「歩いている時に時々ケンケンする」という症状が認められました。これは、発生頻度がとても高い膝蓋骨脱臼によく認められる症状ですので、膝蓋骨脱臼に気を取られていたり、この病気についての知識が無いと見逃されてしまう恐れがある病気なのではないかと思われます。
↑正常肢のレントゲン画像。
↑右後肢の踵(かかと)の部分にある浅指屈筋腱が脱臼しており、その周囲が反対側の正常肢と見比べると腫れています
今回は整復手術を実施ました。
骨に溝を作り、関節包を縫合して、キルシュナーピンで整復しました。
↑手術後
↑手術後
術後は数週間包帯を巻いておき、徐々にリハビリを行ったところ、跛行も無くなり改善してくれました。
1. 概要
犬の浅指屈筋腱(SDFT)は、足根(かかと)の後方に位置し、趾(指)の屈曲を担当する腱です。この腱が正常な位置から脱臼(ずれる)することを 浅指屈筋腱脱臼(SDFT脱臼) と呼びます。特に後肢の踵(かかと)部分での脱臼が多く見られます。
2. 原因
外傷(転倒、ジャンプ後の着地失敗、事故など)
解剖学的異常(足根骨の構造異常、靭帯の緩みなど)
加齢による組織の弱化
遺伝的要因(特定の犬種では発生率が高い)
3. 好発犬種
特に発生しやすい犬種として以下が挙げられます。
シェットランド・シープドッグ
ボーダー・コリー
ウィペット
ラブラドール・レトリーバー
グレイハウンド
ただ、今回の2匹の犬はトイプードルであり、過去に治療したことのある犬もトイプードルだったので、日本国内ではトイプードルに発生が多いような気がします。
4. 症状
歩行異常(跛行):特に後肢に異常が見られる
踵の外反または内反:腱が内側または外側にずれる
痛みと腫れ:触診すると腫れており、痛がることがある
跛行の変化:腱が一時的に正常位置に戻ると症状が軽減することもある
5. 診断
触診:踵を動かしながら腱の位置を確認
X線検査:骨の異常や腱脱臼の有無を評価(直接的に腱はレントゲンには写らないが、周囲の変化を確認)
超音波検査:腱の損傷や脱臼の詳細を評価
CT/MRI(必要に応じて):より詳細な画像診断
6. 治療法
① 保存療法(軽度の場合)
安静:運動を制限し、腱が自然に安定するのを待つ
サポーターやバンデージ:腱を支える目的
抗炎症剤(NSAIDs):痛みと炎症を軽減
※保存療法で症状が改善するケースは少ないとされています
② 外科手術(重度の場合)
保存療法で改善しない場合や、重度の脱臼では手術が必要になります。
腱の再固定術:ずれた腱を元の位置に戻し、周囲の靭帯や組織で補強
人工靭帯や縫合術:腱の周囲を強化し、再発防止
一時的なギプスや副子(スプリント)固定:術後の安定化を図る
※今回のケースでは、キルシュナーピンで腱が脱臼しないように固定し、関節包を縫合しました。
7. 予後とリハビリ
手術後の予後は良好なことが多いが、リハビリが重要
術後4~6週間は運動制限が必要
リハビリ:マッサージや軽いストレッチ、低負荷の運動(例:水中歩行)を段階的に導入
8. 再発予防
過度なジャンプや急な動きを避ける
筋力を維持するための適度な運動
定期的なチェック(特にスポーツ犬や活動量の多い犬)
まとめ
犬の浅指屈筋腱脱臼は、跛行や歩行異常を引き起こす疾患であり、軽度の場合は安静やサポートで治ることもありますが、重度の場合は手術が必要になります。特に運動量の多い犬種では注意が必要で、治療後もリハビリや管理が大切です。
もし愛犬が跛行を示したり、かかと周辺に異常が見られる場合は、早めに診察を受けることをおすすめします。