猫の症例

腸捻転の手術(猫)

猫のぽたくん(院長井尻宅の猫ちゃん)が何度も吐いている様子。

夜に突然吐くようになり、胃液なども何も出なくなってからも、何度も何度も、、、30回以上嘔吐しています。

そして、「ニャオー、ニャオニャオー!」「ニャオー、ニャオニャオー!」と何度も苦しそうに鳴いています。

猫ですので、普段から嘔吐することは珍しくないのですが、何回も続けて吐くのといつもと様子が違う、のは何か重大なトラブルが発生している可能性が高そうです。

 

心配なので動物病院へ連れていき、エコー検査を実施したところ、

腸の中に液体が貯まっており、腸閉塞が疑われるエコー所見が認められました。

ただ、異物(紐など)を食べることはほとんど無いため、異物?が嘔吐の原因かどうかはハッキリしません。猫の場合、人間と違って話ができないので隠れてこそっと変な物を食べてしまうこともあるため異物を完全に否定することは出来ないのですが、エコー検査では異物らしい影は認められませんでした。

 

エコー所見も、様子も明らかにおかしくて改善しないため、翌朝もう一度エコー検査をしたところ…、

やはり腹部エコーの異常所見は変わらず認められ、カラードップラーで確認したところ、どうやら腸の血流が無くなっています。

 

これは腸捻転も疑われる所見のため、論文を調べてみたところ、世界的にも猫の腸捻転の報告は少なく、

下記の論文を調べてみたところ、

Partial volvulus, entrapment, and extraluminal obstruction of the jejunum in a cat
Hadala A, et al. Vet Sci, 2023

「猫の腸の完全または部分的な捻転はほとんど報告されていません。小腸捻転から生還した猫の記録はわずか2例です 。」

 

という記載があり、

 

また、

J Feline Med Surg
.2010 Nov;12(11):874-7.
Successful treatment of small intestinal volvulus in two cats
Sebastian C Knell 1, Angelo A Andreoni, Matthias Dennler, Claudio M Venzin

によると、

「背景:猫では、剖検で診断された小腸捻転症の症例が2件報告されており、さらに手術後に死亡した患者で結腸捻転症の症例が1件報告されています。

臨床的意義: 本報告では、腸間膜捻転症を呈した猫2匹の治療に成功した症例を報告する。著者らの知る限り、猫における小腸捻転症の生前診断または治療に関する報告はこれまで発表されていない。本症例から、猫における腸捻転症の診断は犬よりも困難である可能性があるものの、予後は犬ほど悪くない可能性があると考えられる。したがって、飼い主には手術を勧めることが推奨される。」

とあり、猫の腸捻転の報告はほとんど無いようです。

確かに、私の経験でも今までに猫の腸捻転は診たことが無いですし、犬ではかろうじて1例(突然死した後の症例を死後解剖して腸捻転と診断)見たことがある程度なので、珍しいのは間違いないと思われます。

 

エコー検査所見と状況から、ただならぬ危機的な状況と思われ、何らかの腸閉塞や腸捻転を疑って翌日に試験開腹手術を行いました。

 

すると…、

お腹を開けると一部の腸が真っ黒に変色しています。これは腸の血流が途絶えて腸壁が壊死しており、詳しく見てみると腸が捻じれて腸捻転を起こしている状況でした。

このような場合、捻じれている部分を元の状態に戻した後に摘出すると、壊死した腸の悪い毒素や血液が体の循環に入ってしまうので、捻じれているからと言って絶対に戻してはいけないと言われています。

捻転解除を先に行うと、短時間でショックや多臓器不全が進行するリスクがあります。

壊死した腸を捻じれたまま切除することで、捻転解除による急激な血流再開(reperfusion injury)や壊死部からの内毒素・炎症性サイトカインの全身循環への流入を防ぐことが出来ます。

 

今回のケースでは幸いな事に、捻じれていた箇所が胆管や膵管、膵臓など重要な器官にぎりぎり影響が出ない位置だったため、まず壊死部と生存部の境界部に糸を通して結紮して壊死部を隔離した後に、生存部の腸の断端同士を縫合しました。

 

お腹を開けて壊死して黒くなった腸を見た瞬間、「ポタくんはもうダメかもしれない…」、と覚悟したのですが、何とか手術を終えることができ、その後も問題無く麻酔も覚めて、元気に回復してくれたので本当に良かったです。

 

 

猫の腸捻転はとても珍しい症状なのですが、ポタくんは以前に尿管結石による尿管閉塞になったため、SUBシステム(皮下尿管バイパスシステム)を使って手術を受けているので、それにともなう癒着などが腸捻転の誘因になっている可能性はありそうです。