犬の症例

小型犬のTPLO

先日、前十字靭帯が断裂した小型犬のワンちゃんが来院されました。

当院では日頃からTPLOという手術方法をよく行っており、前十字靭帯断裂のワンちゃんが多く来院されています。

早速診させて頂くと、触診で膝関節に緩みがあり後足の前十字靭帯が完全に断裂していそうです。

飼主さまとご相談の結果、機能回復が一番良いとされているTPLOという手術を実施することになりました。

↑手術後の様子。骨を切り、脛骨高平部の角度を変えてプレートとスクリューで固定します。

↑手術後の様子

順調に経過すると、術後2~3か月程度で骨が癒合して治る予定です。

犬の前十字靭帯断裂(cranial cruciate ligament rupture, CCLR)は、犬の膝(膝関節)で最もよくみられる整形外科的疾患の一つです。発症頻度が高く、特に中型犬〜大型犬・肥満犬・活発な犬種に多く見られます。


前十字靭帯とは?

  • 犬の膝関節(stifle joint)は、大腿骨と脛骨で構成されており、**前十字靭帯(CCL)**は脛骨が前方にずれるのを防ぐ靭帯です。

  • CCLが断裂すると、関節の不安定性が生じて痛み・跛行・関節炎につながります。


主な原因

  • 慢性変性(多くの犬では、外傷ではなく徐々に劣化して切れる)

  • 肥満や過体重

  • 高い運動強度(ジャンプや急な方向転換)

  • 解剖学的要因(脛骨高平角(TPA)が高い犬種)


 症状

軽度の場合 重度の場合
跛行(スキップ様) 足をまったく着かない
一時的な違和感のみ 常に足を浮かせる
関節の腫れ(滑液増加) 関節不安定性(引き出し徴候)

 


 診断

  1. 触診:引き出し徴候(drawer sign)や脛骨圧迫試験(tibial compression test)

  2. レントゲン:関節腫脹・骨の変形(関節炎の兆候)

  3. 関節鏡


治療法

 保存療法(小型犬・軽度例・外科不能例)

  • 安静+体重管理

  • 消炎鎮痛剤(NSAIDs)

  • リハビリテーション

→ ただし、関節炎が進行することが多く、推奨はされない


外科手術(推奨)

術式 特徴・適応
TPLO(脛骨高平骨切り術) 現在最もよく行われる。関節の安定性を骨の角度変化で実現。術後回復も良好
関節外法(ラテラルスーチャー法) 小型犬や高齢犬でTPLO不可のケースに。再断裂率がやや高い

 


 術後経過と予後

  • 手術後2〜3ヶ月でほとんどの犬が日常的な運動に復帰可能。

  • 完治までは約3〜6ヶ月を要する。

  • 対側(反対側)の前十字靭帯も1〜2年以内に断裂するケースが**30〜50%**程度ある。


予防・管理

  • 適切な体重管理

  • 過度なジャンプや激しい運動の抑制(特に既往歴のある犬)

  • 高齢犬は特に注意